はじめに
「『五段活用』って何でしたっけ、思い出せません……!それに、テキストに載っている『語幹』の切れ目も、何が違うのかさっぱりで……」
お昼休み、教員試験のテキストを開いた後輩が、早くもパニックになっていました。
たしかに、中学生の頃に国語の授業でちらっと習ったきりの用語なんて、普通は忘れてしまいますよね。同じ日本語なのに、なぜ「学校文法」と「日本語文法」という2つのややこしいモノサシがあるのか。混乱しやすい「語幹」の話も交えて、一番シンプルなところから整理してみます。
1. 学校文法は、日本人が「無意識のルール」を分析するためのもの
「学校文法」は、すでに日本語をペラペラに話せる日本人が、言葉の仕組みを後から細かく分析するために作られた文法です。
たとえば、私たちは「書く」という動詞の後ろに言葉を続けるとき、
- 書か・ない
- 書き・ます
- 書く。
- 書け・ば
- 書こ・う
というように、語尾の音を「か・き・く・け・こ(カ行の5つの音)」に無意識に変化させています。このように、五十音図の5つの段をフルに使うから、学校文法では「五段動詞(五段活用)」と呼びます。
ここでポイントになるのが、形が変わらない芯の部分である「語幹(ごかん)」の扱いです。学校文法では、漢字の部分である「書(か)」までが語幹で、変化する「く」の部分はすべて「活用語尾(形が変わるお尻の部分)」だと考えます。
- 学校文法の切れ目: 「書(か)」 + 「く」
2. 日本語文法は、外国人が「ゼロから組み立てる」ためのもの
一方で、「日本語文法」は、日本語をゼロから学ぶ外国人が、迷わずに正しい日本語を組み立てて話せるようになるために作られた文法です。
もし、外国人学習者に「『書(か)』の後ろを『か・き・く・け・こ』の5つに変化させてね」と教えてしまうと、「じゃあ、いつ『か』にして、いつ『き』にすればいいの?」と迷子になってしまいます。
そこで日本語文法では、
- 後ろに「ない」をつけたいときは ➔ 「書か」にする(書かない)
- 後ろに「ます」をつけたいときは ➔ 「書き」にする(書きます)
というように、「次に続く言葉とセットで覚える」という実用的なルールを作りました。そして、このルールが共通している動詞の仲間を、まとめて「グループ1」と名付けたのです。
さらに、日本語文法では「語幹」の切れ目もアルファベット(ローマ字)で合理的に考えます。「書く」をローマ字にすると [ kak‐u ] ですよね。後ろがどう変わっても、頭の [ kak ] の部分までは絶対に形が変わりません。だから、日本語文法ではこの [ kak ] までを語幹だと考えます。
- 日本語文法の切れ目: 「kak」 + 「u」
「か・き・く・け・こ」の手前にある [ k ] の音までを「変わらない芯(語幹)」にしてしまった方が、外国人学習者にとってはルールの説明がずっとシンプルになるからです。
3. 表で見る「動詞と語幹」の違い
比較するポイント | 学校文法(国文法) | 日本語文法(日本語教育文法)
|
だれのための文法? | 日本の小中学生(すでに話せる人) | 外国人学習者(ゼロから学ぶ人) |
文法の目的は? | 言葉の仕組みを「分析する」 | 迷わずに言葉を「組み立てる」 |
「書く」の分類 | 五段動詞 (語尾が5つの音に変わるから) | グループ1 (同じルールで組み立てる仲間だから) |
「書く」の語幹はどこ? | 「書(か)」まで (ひらがな基準の引き算) | 「kak」まで (ローマ字基準の引き算) |
全体のグループ数 | 5種類に細かく分ける | 3種類にすっきりまとめる |
おわりに
「なんで用語も語幹の切れ目も2つずつあるの?」と難しく捉える必要はありません。
「日本人が日本語を分析するための、ひらがなベースのモノサシ(学校文法)」と、「外国人が明日から使うための、ローマ字ベースの合理的なモノサシ(日本語文法)」。
「なるほど。語幹の切れ目が違うのも、外国人がパズルみたいに言葉を組み立てやすくするための工夫なんですね!」
そう言って、すっきりした顔でペンを走らせる後輩のノートには、2つの文法の目的と、新しく書き足されたローマ字の切れ目が綺麗に整理されていました。
このように「だれのために作られたルールなのか」という視点を持っておくだけで、試験の文法問題や語幹の問題の視界がぐっとクリアになりますよ。

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